Proposal · Roadmap
医療・介護 × AIエージェント
事業立ち上げロードマップ
はじめに
先日の面談、ありがとうございました。先生が「医療・介護現場のアナログ業務をAIで変えたい」「将来は他業界にも横展開したい」と考えていること、そして今はまず"AIで何ができて何ができないか"を理解する段階だということを踏まえて、僕だったらこう進めます、という案をまとめました。
最初にお伝えしたいのは、このロードマップのゴールは「Claude CodeやCodexを使えるようになること」ではない、ということです。ツール学習はあくまで手段で、本当のゴールは 先生の現場で業務削減という"数字"を出し、それを横展開して継続課金が回る事業にする ことです。学びながら実際に使える物を作り、最短で売上の出口まで持っていく設計にしています。
なお、ここに書いたのは全て仮説です。実際は先生の現場を見てから優先順位も価格も作り直します。計画を磨き続けるのが目的ではなく、現場の検証結果で計画を上書きしていくのが目的です。
1. 最初に握りたい3つの方針
① 「学ぶ」より「小さく作って数字を出す」を優先する ツール学習が目的化すると、時間だけ溶けて何も残りません。学習と並行して"自院で使える小さな物"を作り、「月◯時間削減」「月◯円のコスト削減」まで一気通貫で出すところを1セットにします。手を動かして物が動くと、AIでできること・できないことの肌感覚も一番速く身につきます。
② 個人情報を扱わない領域から始める 医療・介護は個人情報・機微情報が重い業界です。最初から患者情報やマイナンバーを扱う設計はリスクもハードルも高い。なので 患者情報ゼロでも成立する業務(マニュアル整備・院内FAQ・各種テンプレ生成・議事録フォーマット化など)から着手します。リスクを抑えつつ成功体験を作り、信頼と実績ができてから機微情報領域に進みます。
③ 自院・自施設で実績→横展開→継続課金、の順で広げる 先生自身が関わるクリニック・介護施設・往診先は、最高のテスト環境であると同時に最強の営業材料です。ここで「before/after」の数字を作れば、それがそのまま近隣クリニックや知人施設への提案資料になります。医師という肩書きは医療業界での信頼獲得(=導入率=CV)に強烈に効くので、ここを活かさない手はありません。
2. 全体像(最初の6ヶ月)
すぐに1〜2ヶ月で開発・導入、ではなく、現場を観察しながら段階的に進めます。下表の「時期」は各フェーズの所要期間ではなく、着手からの累積目安です(現場の状況で前後します)。
| 時期(着手から) | フェーズ | このフェーズのゴール | 主な成果物 |
|---|---|---|---|
| 1〜2週目 | Phase 0:土台づくり | 安全な開発環境とAIの全体像を掴む | 環境構築・運用ルール・学習の型 |
| 3〜4週目 | Phase 1:手を動かして学ぶ | 小さく作る感覚を掴む | 自分用の業務効率化ツール1個 |
| 2ヶ月目前後 | Phase 2:課題発見と優先順位づけ | "どの業務をAI化するか"を決める | 業務棚卸し表・AI化候補ランキング |
| 2〜4ヶ月目 | Phase 3:最初のPoC(自院) | 1業務で削減効果を数字で実証 | 動くプロトタイプ・効果測定レポート |
| 4〜6ヶ月目 | Phase 4:プロダクト化 | 横展開できる形に整える | ケーススタディ・デモ環境・価格表 |
| 6ヶ月目以降 | Phase 5:横展開・事業化 | 他施設へ展開し継続課金を作る | 月額契約・導入の型・運用体制 |
3. フェーズ別アクションリスト
Phase 0|土台づくり(着手〜2週目)
目的:安全に開発できる環境を整え、AIで何ができるか/できないかの全体像を掴む。
成果物:開発環境一式/情報取り扱いルール(A4・1枚)/学習と相談の型 確認ポイント:先生が一人で「AIに何かを頼んで結果を受け取る」までを自走できる状態
Phase 1|手を動かして学ぶ(3〜4週目)
目的:「自分で小さく作って動かす」体験を積む。ここで"作れる感覚"が芽生えると以降が一気に速くなる。
成果物:自分専用の業務効率化ツール1個/プロンプト・手順のメモ集 確認ポイント:「AIはこういうタスクなら任せられる/ここは無理」を自分の言葉で説明できる
Phase 2|課題発見と優先順位づけ(2ヶ月目前後)
目的:現場を観察し、"どの業務をAI化すれば一番効くか"を決める。ここが事業の成否を分けます。
成果物:業務棚卸し表/AI化候補ランキング/最初に着手する1業務の決定 確認ポイント:「なぜこの業務を最初にやるのか」を数字(時間・頻度)で説明できる
最初に効きやすい候補(個人情報が軽い順)
- 院内/施設内のFAQ・ナレッジBot(マニュアル・手順書を元に職員の質問に答える)
- マニュアル・手順書の整備と検索(属人ナレッジの型化)
- 家族向け説明文・案内文のテンプレ生成
- 議事録・申し送り・報告書の"フォーマット化"(※PoC初期は患者・利用者に紐づく実データは対象外。検証用ダミーデータで「型」だけ作る)
- 各種書類のテンプレ自動生成
※「氏名を消せば安全」ではない点に注意。病歴・居室・日時・家族関係などの組み合わせで個人が特定され得ます(再識別リスク)。患者・利用者情報を扱うかどうかはSection 6のチェックゲートで判断します。
Phase 3|最初のPoC:自院で削減効果を実証(2〜4ヶ月目)
目的:選んだ1業務で「実際に時間が減った」を数字で出す。これが後の全ての営業材料になる。
効果測定で見る数字(例)
削減効果
- 1件あたり作成・対応時間の削減率(目標:30%以上)
- 月あたりの削減時間・削減コスト換算
安全性・品質(医療・介護では削減効果と同じくらい重要)
- 重大な誤りの発生率(事実・判断ミス。目標:対象業務・対象期間・件数を明記したうえで重大誤りゼロ)
- 出力の根拠が確認できるか(なぜその答えなのか)/ヒヤリハット件数
- 内容の修正率と差し戻し理由(語尾直しを超える修正がどれくらい・なぜ起きたか)
- 職員の確認にかかる時間(AI導入で別の負荷が増えていないか)
- 利用ログが残るか/システム停止時に手動運用へ切り替えられるか
- 現場責任者の承認(運用に乗せてよいかの最終判断)
※「修正率20%以下」のような単一指標だけは使いません。語尾直しだけで良くも悪くも見えてしまうため、複数の数字で判断します。
成果物:動くプロトタイプ/効果測定レポート(before/after)/運用ルール 確認ポイント:「この業務で月◯時間・◯円削減できた」+「対象期間・件数のなかで重大誤りゼロで運用できた」を、根拠つきでセットで言い切れる
Phase 4|プロダクト化:横展開できる形に整える(4〜6ヶ月目)
目的:自院の実績を、他施設にそのまま見せられる"商品"に変える。CV(導入率)を上げる仕込みの段階。
成果物:ケーススタディ資料/デモ環境/価格表/導入手順の型 確認ポイント:先生以外の人に「これ、うちでも使える?」と言わせられる状態
Phase 5|横展開・事業化(6ヶ月目以降)
目的:近隣クリニック・知人の施設へ広げ、継続課金(サブスク)が回る状態を作る。
成果物:月額契約/運用体制/横展開の実績 確認ポイント:解約されず毎月続く契約が複数立っている(MRRが積み上がる)
4. 売上・CV(導入率)を伸ばすための導線設計
事業として「売上が立つ」「導入が決まる(CV)」ためには、開発力よりも"導線"が効きます。僕がいつも意識している型です。
① 実績ファースト:自院の数字が最強の営業資料 他社の事例より「先生のクリニックで月◯時間減りました」の方が、同じ医療・介護の人には圧倒的に刺さります。Phase 3の効果測定を丁寧にやることが、そのまま将来のCV改善になります。
② 導入ハードルを徹底的に下げる 医療・介護の現場は忙しく、新しい物への警戒も強い。だから入口は「無料の業務診断」「機微情報を使わない2週間お試し」から。いきなり大きな契約を迫らず、小さく試して効果を体感→本導入、の階段を作るとCVが上がります。
③ ROIを"その場で分かる数字"で見せる 「月3万円払って、スタッフの残業が月10時間減るなら安い」——この計算が一目で分かる資料を用意します。感覚ではなく金額で語ると決裁が速くなります。
④ 継続課金を前提に設計する 単発の開発で終わらせず、月額で運用・改善・制度変更時のテンプレ更新案づくりまで含める。僕が社労士向けでやっている「月3万円のサブスク+継続的な改善対応」と同じモデルを、医療・介護向けに低単価で横展開するイメージです。継続率(解約されないこと)が事業の本体になります。
⑤ 紹介が回る設計にする 医療・介護は横のつながりが強い世界。1施設で成功すると紹介で広がりやすい。導入施設に「紹介したくなる体験」を作ることが、広告費ゼロでのCV改善につながります。
最初に狙う顧客(ICP)と営業KPI
最初の顧客は、いきなり知らないクリニックではなく、先生のネットワーク内で、課題が明確・決裁が速く・小さく試せる相手から始めます。
想定する初期顧客像(例):
- 先生が関わる、または知人が院長/施設長の中小クリニック・介護施設(職員5〜30名程度)
- 書類作成・問い合わせ対応に明らかに時間を取られている
- 院長/施設長が新しい取り組みに前向きで、その場で「やる/やらない」を決められる
Phase 4〜5で置く営業KPI(仮の目標。実績で随時調整):
| ステップ | 目標 | 補足 |
|---|---|---|
| 紹介・接触候補のリスト化 | 20件 | 先生の人脈+紹介から |
| 面談 | 10件 | リストの半分に会う |
| 無料業務診断 | 3件 | 課題が合った先 |
| 有償PoC(お試し) | 1件 | 診断で効果が見込めた先 |
| 月額契約化 | 1件 | PoCで数字が出た先 |
毎月この数字を見て、どのステップで落ちているか(=CVのボトルネック) を特定し、そこを集中的に改善します。失注した相手には必ず理由を聞き、次の提案・プロダクトに反映します。
商品ラインナップ(仮)
社労士向けで機能している段階設計を、医療・介護向けに移植した叩き台です。価格は現場ヒアリング後に調整します。各段階に「成果指標」と「次に進む条件」を必ず置き、満足で終わらず次の契約につなげます。
| 段階 | 内容(期間) | 価格イメージ | 成果指標/次に進む条件 |
|---|---|---|---|
| 業務診断 | 業務ヒアリングとAI化候補・削減見込みの整理(1週間) | 初回数件まで無料、以降数万円 | AI化候補と削減見込み時間を提示/顧客が「試す価値あり」と判断 |
| 2週間お試し(PoC) | 1業務に限定、機微情報を使わず削減効果を測定(2週間) | 低価格〜無料 | 1件あたり作成時間30%以上削減・対象期間で重大誤りゼロ/本導入に合意 |
| 本導入 | 業務へのAI組み込み・マニュアル/FAQ整備(1〜2ヶ月) | 要見積もり | 対象業務で安定運用・現場責任者の承認/月額運用へ移行 |
| 月額運用 | 更新・改善・制度変更時のテンプレ更新案・利用レポート(3ヶ月更新) | 月額(低単価・継続) | 継続率(解約されないこと)/別業務への横展開 |
5. ツール戦略(Claude Code / Codex / OpenClaw / API)
Claude Code と Codex を主軸にする 両方とも得意分野が違うので、用途で使い分けます。ざっくり言うと、設計や対話的な作り込み・文章系はClaude、特定の実装タスクはCodex、といった具合に併用すると効率的です。最初は1つに絞らず、両方触って体感で使い分けの感覚を掴むのが近道です。
OpenClawは当面"使わない"判断を推奨 OpenClawは何でも実行できてしまう強力さの裏返しで、使い方を誤るとフォルダやファイルを勝手に消すリスクがあります。学習の初期に大きな事故を起こすのが一番もったいないので、まずはClaude Code・Codexで安全に土台を作り、運用に慣れてから必要性を判断します。
API(Claude / OpenAI / Gemini)は"プロダクト化の段階"で 学習・PoCの段階ではエージェントツールで十分です。プロダクトとして他施設に提供する段になったら、API利用に切り替え、その時に料金・データ利用条件(入力データが学習に使われないか等)をきちんと確認します。
ノーコード/自動化(GAS・Make・Zapier・Notion・Slack・LINE連携) 全部を自前開発する必要はありません。LINEで問い合わせを受ける、Slackに通知する、Notionでナレッジを管理する、といった"繋ぎ"はノーコードで十分なことが多い。AIエージェント+自動化ツールの組み合わせで、開発工数を最小化します。ただし「繋ぎだから安全」ではありません。これらも外部サービスに情報が出る経路なので、患者・利用者情報を流さない用途に限定し、扱う場合はSection 6のチェックゲートを通します。
6. セキュリティ・個人情報の設計(医療特有の論点)
医療・介護は社労士事務所以上に機微情報(患者の病歴等=「要配慮個人情報」)が重い業界です。ここを軽視すると一発で信頼を失うので、最初から設計に組み込みます。なお僕は法律家ではないので、最終的な法的判断は弁護士・行政書士等の専門家確認を前提とし、ここでは「実務でどう設計するか」の方針を示します。
確認の物差し(参照する基準)
- 個人情報保護法:病歴等は「要配慮個人情報」にあたり、取得・第三者提供に原則として本人同意が必要
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第6.0版)」
- 厚労省「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」
- 個人情報保護委員会のガイドライン
- 介護施設の場合は、各施設の個人情報・記録の取り扱い規程
※上記は2026年6月19日時点の整理です。これらのガイドラインは改定され得るため、契約・導入の前には必ず最新版を再確認します。
データの分類と取り扱いルール
- 扱う情報を3つに分類する:①公開可(マニュアル・FAQの一般部分)/②内部情報(個人を特定しない手順。ただし職員名・内部連絡先・認証情報・施設固有の運用情報などは患者情報でなくても外部投入を制限する)/③要配慮個人情報(患者・利用者の病歴等)
- まず①②から着手し、③はAIに直接入れない設計を当面の前提にする
- 「氏名を消せば安全」ではない点に注意:病歴・ADL・居室・日時・家族関係・希少疾患などの組み合わせで個人が特定(再識別)され得る。PoC初期は患者・利用者に紐づく実データは対象外とし、検証用ダミーデータで「型」だけ作る(法律上の「匿名加工情報」とは別物として扱う)
外部サービス(AIツール・API・クラウド・ノーコード)利用時の確認事項
実データを扱う段階では、外部に情報が出る経路すべてについて、最低限つぎを確認してから使います(=導入前のチェックゲート)。
- 入力データが学習に使われない設定・契約か
- データの保存場所(国内/国外)と保存期間、削除の手順
- 委託契約・データ取扱に関する取り決め(DPA)の有無、再委託先の管理
- アクセス権限(誰が見られるか)と、操作・閲覧の監査ログが残るか
- 利用する端末・アカウントの管理(私物端末・共有アカウントを避ける)
- インシデント(漏洩・誤送信)発生時の連絡・対応手順
- ノーコードツール(GAS/Make/Zapier/Notion/Slack/LINE等)も同じ基準で見る
運用の原則
- 最終判断は必ず人間:AIは下書き・要約・検索補助に限定。医療判断・法的判断はサービス対象外として契約に明記
- 誰がどの情報を扱うかを運用で決める:操作する人・確認する人・承認する人の役割を明確にする
- 小さく始めてリスクを抑える:①②の領域で実績を作ってから、③に進むかを慎重に判断する
- チェックゲート化:上記の確認は、Phase 0(方針決定)と、実データに近づくPhase 3〜4の前で必ず通す
7. 船津の伴走範囲(どこを一緒にやるか)
先生が「現場の課題発見」と「医師としての信頼・営業」に集中できるよう、技術と設計のしんどい部分は僕が引き受けます。
- AIでできること/できないことの壁打ち・学習ロードマップの伴走
- Claude Code・Codexの使い方指導と環境構築
- 業務の棚卸し・要件定義・AI化優先順位づけの整理
- プロトタイプ開発・コードレビュー
- セキュリティ・個人情報・法人導入時の設計アドバイス
- 継続課金型の事業モデル設計と価格設計
- 案件が具体化したら、設計→実装→納品→保守まで
僕の強みは、現場に入って課題を見つけ→提案→設計→実装→納品→運用保守→数字で成果を出す、までを一人で回してきたことです。「ツールの使い方を教える」だけでなく、実際に業務を削り、売上・生産性につなげるところまで一緒に走れます。
8. 直近2週間でやること(Next Action)
まずはここから。重くないところだけ、小さく始めます。
- 環境構築MTG(60分):Claude Code・Codexをセットアップし、簡単なお題で両方を触ってみる
- 情報取り扱いルールを1枚にまとめる:AIに入れてよい/だめな情報の線引き
- 観察メモを始める:日々の業務で「これ面倒だな/無駄だな」と思った瞬間をスマホにメモ(Phase 2の棚卸しの材料になる)
- 次回MTGで業務棚卸しの叩き台を一緒に作る
「まず何を学ぶか」「どう練習するか」「どの業務がAI化しやすいか」「どのツールを使うか」——この辺りを、毎回の壁打ちで一緒に言語化していければと思います。小さく始めて、相性が良ければ長くご一緒させてください。
本ロードマップは初回面談時点の仮説です。先生の現場を見たうえで、優先順位・価格・進め方は随時上書きしていきます。